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「給特法」改正がもたらすもの

第1回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■教員に残業代は支払われているのか?

 「残業手当が支払われない」と記したが、実は正確ではない。給特法では、残業代が支払われない代わりに、基本給の4%にあたる額が「教職特別手当」として支給されている。給特法施行当初は、この教職特別手当を、「ありがたい」と受けとる教員は少なくなかったという。

 4%は、1966年度に1年間かけて行われた全国的な教員の勤務状況調査を基にして算出されたものだ。その調査の結果、月あたりの教員の平均残業時間は「8時間」だった。その8時間の残業手当に相当する額が、基本給の4%というわけである。
 平均だから、月8時間の残業をしていない教員も多かった。最近では若手ほど残業させられる傾向にあるようだが、当時は若手ほど残業する必要がなかった。残業もしないのに基本給の4%が割り増しされるのだから、「ありがたい」以外の何ものでもなかったはずである。

薄給激務の教員たちの日々は改善されていくのだろうか…?

 いまも教員の残業時間が平均月8時間のままであれば、給特法の見直しは臨時国会の議題になどあがらなかったはずである。教員の働き過ぎも社会問題化しなかった。

 臨時国会で改正案が審議されようとしているのは、4%の根拠となっている平均月8時間という教員の残業時間が大きく変わってきたからである。

■教員の残業時間は月100時間超えも…

 文部科学省による「教員勤務実態調査(2016年度実施)」でも、厚生労働省が「過労死ライン」としている月80時間以上の残業をしている教員は、小学校でも57.8%で、中学校では74.1%にもなっている。これは文科省調査なので、実態そのまま反映されているかどうかについては疑問もある。文科省調査に対して学校は「忖度」するからだ。実際、教員と話しをしていると、「月100時間以上は残業している」と聞くことも珍しくない。

 ともかく、給特法で基本給の4%の元になっている「平均月8時間」の残業時間は、いまでは10倍以上になっていることになる。8時間で4%ならは、単純に計算しても40%になっていなくてはならないはずだ。
 ところが、残業時間は10倍にもなっているのに、教職特別手当は4%のまま据え置かれている。これでは、残業手当が支払われていないに等しい。だから、「定額働かせ放題」なのだ。その状況は、普通の会社員の感覚からしてもおかしいはずだ。

 前述したように、臨時国会で給特法改正案が審議されることになっているが、それは「残業手当を払う」という改正ではない。

 超勤訴訟に敗北した政府・自民党が、巻き返しをはかったのが給特法である。つまり給特法は、教員に一般常識でいうところの残業手当を支払わないための政府と自民党による「苦肉の策」だった。給特法の根本的な狙いは、「教員に残業代は支払わない」ことでしかない。
 教員に残業手当を支払うことにすれば、もはや改正ではなく、給特法そのものの存在意義がなくすことになる。「廃止」ではなく「改正」がテーマとなっているのは、給特法の狙いである「教員に残業代は支払わない」方針を貫く姿勢のあらわれでしかない。

 ここを出発点にして、これから給特法と教員の働き方改革について考えていきたいとおもう。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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